『帰ってきたヒトラー』を読みました


ドイツで物議を醸した作品です。
アドルフ・ヒトラーその人が現代にタイムスリップしたという素敵な話。
この設定を知っただけでわくわくと胸のときめきが止まらず、手に取った次第です。
ヒトラーは自ら生きた時代と現代のあらゆる環境の違いから最初は戸惑いますが、次第に順応していきます。
周りの人々はヒトラーのそっくりさんと認識します。
ヒトラーの言うことは至極本気ですが、人々はヒトラー的なブラック・ジョークだと捉え、
なんやかんやでコメディアンとして大いなる人気を博すことになります。
彼と周囲の人々の会話の噛み合わなさや、ズレ、勘違いがとても笑える。
ヒトラーの強烈な語り口による現代批判、社会批判には思わず頷いてしまうところもあります。
しかしこれは著者の見事なハニートラップの気がしてならない。
部分的ではあるが、本当に彼と同調していいのだろうかとモヤモヤが残るのです。
コメディちっくではあるけれども、背筋が凍るような恐ろしさがあります。
多くのヒトラーを扱った作品では彼を単なる気狂いと描いていることが多い。
これには少なからず違和感を覚える人もいるでしょう。
果たして、彼は単なる気狂いだったのか。
ヒトラーは選挙によって民主的に選ばれた政治家です。
彼はドイツ経済を立て直し、雇用を生み、連合国に打ち砕かれた誇りを取り戻しました。
人々を煽動する演説能力はおそるべき手腕と認めざるを得ない。
著者は「人々は、気の狂った男を選んだりしない」と言っています。
つまり、単なる気狂いとして描いただけでは、何故あのような悲劇が起こったのか本質が見えないということなのです。
本書のヒトラーは魅力的であり、頭の切れる人物として描かれています。
真っ当な政治批判をし、人々を惹きつける。だからこそ恐ろしい。
この小説はドイツだけではなく、あらゆる国に対して警鐘を鳴らしているのではないか。
現代社会にヒトラーをのさばらせる可能性があることに?
「悪いことばかりじゃなかった」にゾッとする。